暴れん棒

 

先日の連休を利用して実家に帰り、
中学時代の同窓会に行って参りました。

 

卒業してから早十余年、当時の面影を
残した友人、消息不明だったクラスメート、
誰だかよく分からない女の子などと再会し、
同窓会の醍醐味をひとしきり堪能しました。

 

同窓会は非常に盛り上がり、朝方に〆の
ラーメンを食べながら、
ああ同窓会とはなんと素敵なものなんだ、
と心酔しておりました。

 

一方で、その日のうちに約200km離れた
現在の住まいまで車で帰らねばならず、
連休中の大渋滞を避ける為、徹夜明け
そのまま早朝に高速を飛ばして帰ろうと
考えておりました。

(無論昨夜はノンアルコールで凌ぎました)

 

快調に飛ばしていた高速道路でしたが、
大渋滞の名スポットで見事にどハマりし、
ピタッと動きを止めてしまいました。

 

最悪である。


眠い上、無理をして早朝帰りを選択したのに
大渋滞にも巻き込まれてしまった。

 

と同時に、猛烈な尿意に見舞われてしまった。
車は動かない、尿意は止まらない。
小さな空間に静と動が共存していた。

 

こういう時こそ冷静になるんだ、と
色々なことに頭を巡らしていると、
いつぞやの誰かが言った、
「高速によく落ちてるお茶っぽい色の
ペットボトル、実はあれトラックの
運ちゃんの小便らしいぜ」という言葉と
再開を果たした。

 

なるほど。さすが運ちゃんである。
頼りになるのはいつも運ちゃんである。

 

もう限界だよー、
と言っている膀胱を無視して、
目の前のペットボトルの水を飲み干した。

 

初めて車の中でズボンを脱ぎながら感じる、
未知なるアドベンチャーと仄かな緊張感。

 

今までよく我慢したな、と労いの言葉を
かけてやりたいのは、我が相棒である。

 

お粗末ながらもすごく可愛いやつで、
30年近くいつも一緒に人生を歩んできた。

そんな相棒をそっとペットボトルの口に
あてがう。


相棒は少し驚いたような顔をしていたが、
彼らは見事にジャストフィット。


ああ、ここが俺の新たな居場所かあ。
と言わんばかりである。

 

非日常空間での放尿に、そっと緊張を
解いてやると、少しずつ我が溶液が
ペットボトルを満たしていく。

 

するとどうだろう、相棒とジャストフィット
を果たしたペットボトルは、私の予想に反した動きをする事になる。

 

放尿と共に、中の空気が抜けずどんどんと
内圧が高まり、あろうことかそのはけ口を
我が相棒へと求めているではないか。


圧でパンパンとなったペットボトルは、
我が相棒をブリんっ!と外に吐き出したのだ。

 

やばい!すぐに止めねば!と思うのですが
皆様も検尿などを通してご承知の通り、
一度出始めたものはなかなか止まらない。

 

旦那ぁ、昨晩は結構飲まれたんすネ!
と言わんばかりに何も知らない相棒は
気持ち良さそうに仕事を続けている。

 

次第に車の座席がひんやりしてきましたが、
まだ間に合う!まだ大丈夫だ!と、くっと
奥の方でその流れを止める事が出来た。

 

ここからは何が何でも慎重にいきたい。


しかし更に悪いことにこのタイミングで
少しずつ渋滞が解消し始めたのである。

非常によくない展開だ。

 

俺の集中力は今股間に注がれている。
運転なんぞ今は二の次だ!

 

緩やかに動き始めた高速で、自分の車だけが
不自然にブレーキランプを点滅させている。

 

少し動いてはカクン、動いてはカクン、
その動きに伴なって暴れ回る相棒が二度と
元の鞘に収まる事はなかった。

 

オイラ、もう調整できんすヨ!と、
相棒は匙を投げ、私のダムは決壊はした。

 

昨晩までグラスに入っていたウーロン茶が、
私の中で温かいおつゆとなり足をつたう。

 

この感覚、何年ぶりだろうか。
もうペットボトルさえ手に持っていない。
今はただ、生物の掟に逆らわず時を過ごす。


気付いた時には、恍惚とした表情で
ハンドルを握っていた。

 

さっきまでの苦しみが嘘のように無くなり、
身体が楽になっている。

 

この虚無にまみれた達成感は、
まるで集合時間を2時間過ぎて
目を覚ました時の感覚に似ている。

 

朝8時。


ゆっくりと曲がり切った先に見えた
パーキングエリアのトイレの中。

 

下半身にまとわりついた朝露を無心で
拭き取っている男が、そこにはいた。
隣では優しそうな父親が3歳くらいの
男の子にちゃんと持たないとこぼすぞー。
などと言っている。

 

少年よ、男は持っていてもこぼす時が来るのだ。

 

喉元まで出そうになりましたが、
ぐっとこらえ帰路につきました。

 

自宅までどうやって帰ってきたかは
よく覚えていません。